• 3住み研究会
  • 2017/03/29
第3回 3住み研究会主催シンポジウム
日程2017/03/29
場所東京 すまい・るホール
日程2017/04/16
場所大阪市立住まい情報センター

シンポジウム
「変わる暮らしと住まいのかたち」
開催報告

2014年に設立した住生活研究所の活動のひとつとして発足した「住みごこち・住みごたえ・住みこなし研究会(通称:3住み研究会)」の集大成として、「変わる暮らしと住まいのかたち」をテーマに第3回シンポジウムが、東京と大阪で開催しました。
これからの20年、30年後はどんな住まいや住まい方が求められるのか、近未来を見すえたさまざまな意見が交わされました。


持続可能性とレジリエンス
京都大学名誉教授・京都美術工芸大学教授
髙田光雄委員長

「変わる暮らし」について、「環境問題・災害リスクの深刻化」、「少子高齢社会の進行」、「グローバリゼーションの進行」の3点を指摘。持続可能性ある社会のためには、個別にそれに合った対応をするのではなく、包括的な対応が必要になると語りました。そして「予測困難な環境変化にしなやかに対応するために、異なる価値観が共存できるレジリエンス(回復力・復元力)が大切である」と結論。その「住まいのかたち」は地産地消、あるものを有効活用する発想も必要で、例えば、京都の町家や大阪のかつての借家などが参考になると語りました。

変わる暮らし
(統計調査報告)

「変わる暮らし」について、山崎陽菜研究員が発表。日本の人口構造、高齢化率、家族類型別世帯数の推移や、住宅着工数の推移などこれからの少子高齢社会の進行とそれに伴う家族のかたちについて、興味深いデータを披露しました。


パネルディスカッション
「変わる暮らしと住まいのかたち」

住生活研究所の伊藤圭子所長が、過去2回のシンポジウムを振り返った後、20~30年後の住まいはどうなるのか、環境・社会・文化に訪れつつある変化をふまえ、多彩な意見が交わされました。


「最期までひとりで自宅」を貫くための住まい
株式会社風 代表取締役 大久保恭子委員

老化を「第1期(65~74歳)」「第2期(75~84歳)」「第3期(85歳~)」に分け、老化の進行が暮らしにどう影響するのかを考察。高齢者は身体能力の低下や関係性の喪失はあるものの、学習能力は衰えないことを指摘。ゴミ問題や医療問題など実際の暮らし方とともに、家事・運動・人付き合いという3習慣を起点とした生活の再構築と「最期まで自宅でひとり暮らし」を貫くための自立を支援する住宅プランを提示しました。


第2次ベビーブーム世代と住まい
東京大学大学院 助教 山本理奈委員

第2次ベビーブーム世代に焦点を当て展開、この世代はいわゆる団塊ジュニア世代で、「単身者世帯が多い」という調査結果をふまえ、団塊ジュニア世代が高齢化を迎える際には、「新たな住まいのムーブメントを生み出す可能性がある」と指摘。「住まいの中に、他の人が気軽に立ち寄れる場を確保するなど、人や社会のつながりをどう維持していくかが鍵」と語りました。


共生の場としての住まい
京都府立大学 教授 檜谷美恵子委員

「ともに住まう」ことを視点に住まいの役割にスポットをあてました。「今後は家事と仕事をどう考えるのかで変わってくるはず。さらに家族再編の時代がやってきて、性別の固定的な役割分担から解放され、新たな家族像ができるのではないか。それに伴い、住宅や暮らし方も変わっていく」と考察。


目指すべき暮らしと住まい
明治大学 教授 園田眞理子委員

冒頭、アメリカの未来学者、レイ・カーツワイル氏が発表した「シンギュラリティ(技術的特異点)」について紹介。「人間と技術が融合するその先に何が起こるのか」という問題を提起。また東日本大震災をふまえ、大震災が起こる可能性も大いにあります。これからは「人口・世帯の減少」「産業構造の転換」「エネルギー転換」と「大地」という深層問題を串刺しできる答えのひとつとして、「家守り」と「まち守り」をかけ合わせ、多彩な世代と人材がより豊かに共存できる「むら」の時代の到来について、実例を交えながら提示しました。


30年後の住まい・暮らし
日本ぐらし株式会社 代表取締役 野間光輪子委員

「シンギュラリティはもうすぐそこ。そのとき、人間の尊厳をどう保っていくのか」と問題を提示。アメリカで独自の自給自足生活を営むアーミッシュを例にとりながら、「AIなどのテクノロジーの進展は止められません。今後、テクノロジーのコントロールに頼りすぎず、人が選択できるよう抑制することが必要」と語りました。

最後に、髙田委員長が「これからの住宅建設は、建物だけでなく家族や仕事も一緒に考えるべき」と指針をしめしつつ。「ユビキタスやIT技術の発達した中で、人と人との関係と同時に、人と技術の関係を考えなくてはならない」と語りました。シンポジウムを経て、3住み研究会による3年間の活動が終了しましたが、これからの家族と住まいはどう変化していくのか。つくり手と住まい手がともに考えていかなくてはならない課題がたくさんありそうです。

写真(左から) : 京都大学名誉教授 髙田 光雄 委員長 / 株式会社風 代表取締役 大久保 恭子委員 /
        明治大学教授 園田 眞理子委員 / 日本ぐらし株式会社代表取締役 野間 光輪子委員 /
        京都府立大学大学院教授 檜谷 美恵子委員 / 東京大学大学院助教 山本 理奈委員
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